こんにちは、ヨーコです。
最近話題の脳トレですが、
こうしたトレーニングをすると、脳のこの部分を鍛えることになって、
こういった機能をトレーニングすることになる。
と、ここまで考えて脳トレを実践している人は少ないのかもしれません。
でも、そんなことがわかるの?
と、疑問に思う人もいるかもしれません。
これは認知心理学者や脳科学者が研究している分野です。
まずは概念(アイデア)から
脳トレなどでトレーニングしたい機能は、だいたい認知機能だと言ってよいと思います。
認知機能とは、注意を含めた知覚を基本とした概念です。
例えば注意ですが、注意のネットワーク(attention network)という概念があります。
- 刺激に備えて準備する(alerting)
- 特定の情報を選択する(orienting)
- 反応の競合を解消する(executive control)
が、構成要素です。
注意ネットワークの機能を説明した記事はこちら!
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でも、概念だけでは抽象的でダメですよね、計ることができなくては。
認知心理学者はいろいろな実験の課題を駆使して、
抽象的な概念をもう少し具体化してきました。
注意のネットワーク(attention network)の具体化:実験の課題
こちらで紹介するのは、注意ネットワークテスト(Attention Network Test)です。
これはコンピューターによるテストで、子供から大人まで、
または動物(サル)までもできる簡単なテストです。
課題としては、コンピュータの画面に映し出される中央の矢印の方向を
キーボードを使って答える、というシンプルなものです。
課題の流れをご覧ください。
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(矢印の列は、プラスサインの上に現れる時と下に現れる時とあります。)
上図の例の場合は、左の矢印キーを押します
さて測定ですが、基本的には、
注意の機能が必要な時の反応時間とそうでない状況の反応時間を比べます。
反応時間は、早い人で1秒の半分もかからないですが、遅い人は1秒以上かかります。
刺激に備えて準備する(alerting)
この機能を測定するには、
刺激がある場合とない場合の反応時間を比べます。
具体的には、課題をこなしている最中に
時々、矢印があ現れる前に「ピーッ」という音がなります。(上図を参考にしてください)
そのことについては課題前には何も触れないので、
気がつかない人もいれば、後で、あのピーって音はなんだったの、と聞く人もいます。
つまりは
刺激に備えて準備する機能=
「ピーッ」有りの矢印に対する反応時間ー「ピーッ」有りの矢印に対する反応時間
となります。
通常「ピーッ」有りの矢印に対する反応時間は
「ピーッ」無しの矢印に対する反応時間より早く間違いも多いです。
解釈としては、この二つの状況の差が大きい人ほど、
外からの刺激に対する反応が大きいということになります。
特定の情報を選択する(orienting)
この機能を測定するには、
空間的情報の選択を補助する情報がある場合とない場合の反応時間を比べます。
具体的には、課題をこなしている最中に
矢印が現れる前にアスタリスク(*)が表れます。(上図を参考にしてください)
アスタリスク(*)が現れた後、矢印が全く同じ場所に現れる時もあるし
その逆の時もあります。上図は、矢印が同じ場所に現れた例です。
刺激に備えて準備する機能と同様、
アスタリスクについては課題前には何も触れないので、
気がつかない人もいれば、後で、あのアスタリスクはなんだったの?と聞く人もいます。
つまりは
特定の情報を選択する機能=
*が矢印と同じ場所に現れる時の反応時間ー*が矢印と反対の場所に現れる時の反応時間
となります。
小さなアスタリスクですが、こよのうな小さな刺激があるだけで、
私たちの特定の情報を選択するという機能が、自動的に作動するのです。
なので、すでに選択されている場所に矢印が現れると、反応時間が早くなるのです。
解釈としては、この二つの状況の差が大きい人ほど、
外からの視覚的刺激に対する反応が大きいということになります。
反応の競合を解消する(executive control)
この機能を測定するには、
反応の競合がある場合とない場合の反応時間を比べます。
具体的には、
中央の矢印が周りの矢印の方向と違う場合と同じ場合を比べます。
実際に試してみると分かりますが、
わかっていても、周りの矢印の方向が逆の時は、非常に厄介に感じるものです。
つまりは
反応の競合を解消する機能=
中央と周りの矢印の方向が違う場合ー中央と周りの矢印の方向が同じ場合
となります(反応時間)。
解釈としては、この二つの状況の差が大きい人ほど、
必要でない情報に注意が入ってしまう、ということになります。
注意ネットワークテスト(Attention Network Test)では、
この3つのネットワークを同時に計測できるという利点があります。
反応の競合を解消する(executive control)機能だけを計測している様子を写した
動画を見つけました。参考までに。
↓↓↓↓
注意のネットワークのダウンロード
実際に注意のネットワークをダウンロードして実験などに使いたい方はこちらを!
↓↓↓↓
急な質問申し訳ございません。ANTに興味があり、調べているとこのサイトを見つけ、分かりやすいなと読ませていただきました。他にANTについて取り上げているサイトもなかなか見つけられない中、とても助かりました。
しかし、元の論文を辞書片手に苦戦しながら読んでもよくわからなかったので、質問させていただけないでしょうか。
Alerting effectの値は、「くるよ」と警告があるdouble-cueと警告のないno-cueの平均RTの差だということまでは分かったのですが、この差が大きいのと小さいのはどちらが刺激に備えて準備できているといえるのでしょうか。
矢印に反応するゲームである以上、警告がなくても素早く反応できなければならないということであれば、差が小さい方が備えられていると言えますし、
警告がきたということをうまく使えているという意味では差が大きい方ができていると言えるような気もしています。
加えて確認ですが、Orienting effectは差が大きいほど、選択できていると言え、Conflicting effectは差が小さいほど、反応の競合が解消できていると言えるということでよろしいでしょうか。
また、元論文に記されている標準得点よりも、現在多く使われている得点リストなどはあるのでしょうか。
たくさん質問してしまい申し訳ございません。ご都合がよろしいときに教えていただけるととてもうれしいです。
お返事が遅くなりました。
”矢印に反応するゲームである以上、警告がなくても素早く反応できなければならないということであれば、差が小さい方が備えられていると言えますし、
警告がきたということをうまく使えているという意味では差が大きい方ができていると言えるような気もしています。” 全くその通りですね。ただ、被験者は警告に関しては何も知らされていないので、無視できればその方がいいということもできます。また、スコアの解釈においては RT (reaction time)だけではなく ER (errror rate)も含めて解釈する必要があります。例えばAlerting effectですが、警告(double-cue)があると RTは早くなりますがエラーも多くなります(特に若い人は)。なので、RTとERの両方においても、Alerting effectが大きくなります。スピードはあるが、ミスってしまうというパターンですね。コメントでも書かれていらっしゃることと関係しますが、警告があった場合とない場合の違いがあるということは、脳の関連する機能がしっかり働いているとも言えますが、裏を返せば、警告がないと早く反応できないという解釈もできるわけです。Conflicting effectと合わせて解釈するとさらに複雑になってきます。警告があったりすると、実行機能がうまく働かなくなってしまうんですね。火災報知器がなっているとパニクってしまうけれど、素早く逃げることはできるって感じでしょうか。簡単に言いますと解釈は難しいということになります(汗)。Orienting effectは差が大きいほど、選択できている、ということですね。特にcueに場所的情報満載というANTの場合(そうでないヴァージョンもあります)、差は大きいほど、得られる情報を駆使しているということです。Conflicting effectは差が小さいほど、反応の競合が解消できている、ですね。これは一番解釈がシンプルだと思います。関係ないことは全てシャットアウトできる能力と言いましょうか。
スコアのリストは、あまり思い当たらないです。ただ、MacLeod et al. (2010)の論文で、ANTを研究した論文を比べているので、そのreference listからそれぞれの論文をチェックするというてもあります。
MacLeod, J. W., Lawrence, M. A., McConnell, M. M., Eskes, G. A., Klein, R. M., & Shore, D. I. (2010). Appraising the ANT: Psychometric and theoretical considerations of the Attention Network Test. Neuropsychology, 24(5), 637.
少しでもお役に立てると、嬉しいのですが。