こんにちは、ヨーコです。


神経心理学的検査のひとつとして、

Buschke Selective Reminding Test(BSRT)があります。

認知機能の中の衰えの中でも、一番気になる記憶障害を計るテストですね。

と言っても、このテストも日本では知られていないかもしれません。

しかし、アメリカ、カナダ内でよく使用される神経心理学検査で

13位という結果が報告されています。

ちなみに1位は、WMS-R/WMS-IIIでした。


Buschke Selective Reminding Test(BSRT)とは

テストの名前が示すように、1973年にBuschkeという人が作ったテストです。


もともとは言語学習や言語記憶のテストとして作られました。

4つのフォームがありますが、第1フォームが一番難しいと言われています。


幾つかの単語を覚えて、覚えている単語を答える。そしてこれを繰り返すテストです。

覚えておくべき単語の中から被験者が言い忘れた単語のみ提示して、

言い忘れた単語を覆い出させるようにするとこから

Selective Remindingという名前が来ています。


このテストからは色々な種類の記憶のスコアを測定することができます。

  • 長期記憶(Long Term Storage/LTS)
  • 長期記憶の想起(Long Term Retrieval/LTR)
  • 短期記憶の想起(Short Term Retrieval/STR)
  • 安定した長期記憶の想起(Constant Long Term Retrieval/CLTR)
  • 不安定な長期記憶の想起(Random Long Term Retrieval/RLTR)
  • 手掛かり再生(Cued Recall)
  • 多項選択(Multiple Choice)
  • 遅延再生(Delayed Recall)

テストの仕方

ここでは、実際にBuschke & Fuld (1974)でレポートされている例で説明します。

まず学習の段階では、試験者は被験者に課題の単語を10個読み上げます。

試験者が単語を読み上げた後に、被験者には覚えている限りの単語を繰り返して言います。

試験者は、被験者の答えた単語の順番を記入します。


試験者は、被験者が言い忘れた単語のみ再び読み上げます(reminding)。

その後、被験者は再び10個の単語から覚えている限りの単語を言います。

これを15回繰り返します(15トライアル)


単語の数やトライアルの数はバージョンによって違います。

6トライアルでも大丈夫だという報告もありますよ。


学習が終わるとすぐに手がかり再生そして、多項選択テストと続きます。

そして、30分してから、遅延再生のテストをします。

採点

合計(Total Recall)

それぞれのトライアルで言えた単語の数。今回の例では「10」が最高の合計点です。

トライアル3では6個の単語を答えられたので、合計(Total Rercall)は6ですね(図参照)。

長期記憶(Long Term Storage/LTS)

2回連続で言えた単語は何個あったか、そしてその合計。

2回連続で言えた単語は長期記憶になったとみなされ、

その後に言えなくても点数に入れます。


トライアル3をみてみましょう。

トライアル3とトライアル4で連続して答えられた単語は5個ですが、

(文献では、アンダーラインで区別していますが、

今回はカウントしやすいように、赤で区別してあります)

「rabbit」はトライアル1とトライアル2で連続して答えられたので、

今回(トライアル3)で答えられなくてもスコアにいれます。


なので、トライアル3の長期記憶のスコアは6です。

カウントしやすいように、そのトライアルでは言えなかったけれど

すでに長期記憶になっている単語はアスタリスクにしてみました。

長期記憶の想起(Long Term Retrieval/LTR)

長期記憶の中から、実際に答えられた数。

長期記憶から、実際には言えてない数(アスタリスクの数)を引きます。

トライアル3の場合は、6−1=5ですね。

短期記憶の想起(Short Term Retrieval/STR)

言えた単語の中で長期記憶に入っていない単語は何個あったか、そしてその合計。

合計から長期記憶の数を引きます。

トライアル3の場合は6−5=1です。


安定した長期記憶の想起(Constant Long Term Retrieval/CLTR)

さて、長期記憶の想起ですが、さらに2種類の想起に分けることができます。

その一つが安定した長期記憶の想起。

つまり、実験者のサポート無しに最後まで答えられた単語のことです。

安定した長期記憶の想起の始まりは、矢印で記してあります。

不安定な長期記憶の想起(Random Long Term Retrieval/RLTR)

もう一つは、不安定な長期記憶の想起です。

こちらは、覚えているけれど、安定していない単語です。

長期記憶の想起から、安定した長期記憶の想起を引いた数がそうですね。

標準値

標準値は、Larrabee et al. (1988)または、

Strauss et al. (2006) を参考にするといいと思います。

今回スコアの例として紹介したのは、55歳の弛緩性麻痺の女性です。

50−55歳の標準スコアを見てみましたが、あまり標準値と変わらないですね。

ただ、CLTRの標準値が101.50(累積スコア)なのに対して、彼女のスコアは64。

かなり下回っていますね。


と、こんな具合に、いろいろなタイプの記憶を見ることができます。

注意のネットワーックとの関係

脳のネットワークに関係する注意のネットワークに関して先日お話ししました。

↓↓↓↓

認知機能、注意のネットワーク(ANT)と関係する脳のネットワーク




BSRTは、注意のネットワークの中でも「反応の競合を解消する(executive control)」

ネットワークと関わっているという報告があります。

記憶する際の「戦略的に」コード化し、読み出すということが、

課題の単語に集中して、反応の競合の解消をしているということなのでしょう。


参考文献
Buschke, H., & Fuld, P. A. (1974). Evaluating storage, retention, and retrieval in disordered memory and learning. Neurology, 24(11), 1019-1019.

Ishigami, Y., Eskes, G. A., Tyndall, A. V., Longman, R. S., Drogos, L. L., & Poulin, M. J. (2016). The Attention Network Test-Interaction (ANT-I): reliability and validity in healthy older adults. Experimental brain research, 234(3), 815-827.

Larrabee, G. J., Trahan, D. E., Curtiss, G., & Levin, H. S. (1988). Normative data for the Verbal Selective Reminding Test. Neuropsychology, 2(3-4), 173.

Rabin, L. A., Barr, W. B., & Burton, L. A. (2005). Assessment practices of clinical neuropsychologists in the United States and Canada: A survey of INS, NAN, and APA Division 40 members. Archives of Clinical Neuropsychology, 20(1), 33-65.

Strauss, E., Sherman, E. M., & Spreen, O. (2006). A compendium of neuropsychological tests: Administration, norms, and commentary. American Chemical Society.